新聞記事 ピケティ氏、米関税「ばかげている」 インフレ、国内外の格差拡大懸念  朝日新聞 4/29/2025

抜粋

トランプ米政権の関税政策について「ばかげている」と批判し、インフレが米国内の格差を広げる懸念を指摘した。過去の米国の経済的な優位性を育んだのは関税でなく「教育」であり、「トランプ大統領はその点を完全に見落としている」とも述べ、米経済の再建に向けて教育の拡充にこそ力を入れるべきだと訴えた。

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 世界的なベストセラー「21世紀の資本」の著者で仏経済学者のトマ・ピケティ氏は、トランプ米政権の関税政策について「ばかげている」と批判し、インフレが米国内の格差を広げる懸念を指摘した。過去の米国の経済的な優位性を育んだのは関税でなく「教育」であり、「トランプ大統領はその点を完全に見落としている」とも述べ、米経済の再建に向けて教育の拡充にこそ力を入れるべきだと訴えた。
 パリで8~9日に行われた格差問題に関する国際会議後に朝日新聞の取材に応じた。
 ピケティ氏はトランプ氏について「米国が(貿易で)ひどい扱いを受けてきたかのように装う手法は極端で、あまりに自己中心的だ」と非難。貿易システムの「本当の敗者」は米国でなく、「アフリカや南米、南アジアといった地域にある最貧国だ」と指摘した。
 その上で、経済的に豊かなグローバルノースと呼ばれる国々が、「何十年もの間、最貧国にとって非常に不利な為替レートを使い、極めて安い価格での貿易を進めてきた。これは変える必要がある」と訴えた。
 米国が導入した相互関税については、新興・途上国(グローバルサウス)も対象にしたことで、「インフレなどを通じて世界の格差を広げる恐れがある」と懸念した。一方で、これらの国々の反発も予想され、「より公平な貿易システムを推進することに、貢献することになるだろう」との見方も示した。
 国際会議での経済格差に関する質疑で、ピケティ氏は、経済の公平性を求める動きが、将来的にドルを使わない貿易につながる可能性に言及した。
 一方でピケティ氏は「20世紀における米国モデルの優位性は、関税によるものではない」と強調。トランプ氏は「米国の黄金時代がまさに始まった」と主張するが、「黄金時代」と呼ばれた米国の1950~60年代の高成長についてピケティ氏は、「生産性が高かったのは、米国が地球上で最も教育に力を入れた国であったからだ」と述べた。(パリ=寺西和男)