朝日author visit

朝日author visit に興味ある記事がありました。
堤さん今村さんの記事から本を読む大切さがわかります。尾木さんの自己肯定感、池上さんの勉強の意義もなるほどと思いました。
 
 ■オーサー・ビジット
 
 本の著者が各地の学校を訪ねて特別授業をする読書推進事業「オーサー・ビジット」(朝日新聞社主催)。今年度も各地で熱のこもった授業が展開されました。池上彰さん、今村翔吾さん、堤未果さんによる授業と、ベルマーク運動参加校での尾木直樹さん、宮西達也さんによる「ベルマーク版オーサー・ビジット」(ベルマーク教育助成財団との共催)の模様を紹介します。
 
 ■AIにはない「力」持って ジャーナリスト・堤未果さん@新潟市立山潟(やまがた)中学校
 「スマホ持ってる?」
 堤未果さんの問いかけに、図書委員30人の半数ほどが手を挙げた。
 その多くが利用している検索エンジンやSNSは便利なのにタダ。堤さんは「ネットで検索や買い物をすると、いつどんなものを買ったのか、家族は何人で好きな食べ物は何か、個人データがどんどん蓄積されていく。検索エンジンやSNSの運営会社は、この膨大な量の個人のデータを売って稼いでいるのです」とカラクリを解説。
 続けて語った言葉は衝撃的だった。
 「これらの会社のトップは口をそろえてこう言いました。『自分の子どもにはスマホもインターネットも触らせない。インターネットばかりやっていると、人の目や顔を見て会話ができなくなり、コミュニケーション能力が身につかないから』と――」
 驚く生徒たち。とはいえ、これからの社会でネットに触れずに生きていくのは無理な話。堤さんは「ネットにコントロールされないために、『想像する』『待つ』『問う』というAI(エーアイ)にはできない『三つの力』を持ってほしい」と語り、生徒たちにこんなメッセージを送った。
 「デジタルが主流になる中、これからは紙の本が『宝物』になる。できるだけいい本を読んでください。そうすればデジタルがどれだけ発達しても怖いものはなくなる。自ら使いこなすことでやりたいことをかなえ、社会も自分たちの手で変えられる。そういう日が必ずやってくるから」(昨年11月実施)
 (ライター・中津海麻子 写真家・御堂義乗)
 
 ★堤未果さんの本
 『ルポ 食が壊れる』文春新書・990円▽『デジタル・ファシズム』NHK出版新書・968円▽『日本が売られる』幻冬舎新書・946円
 
 ■人と比べず、ありのまま 教育評論家・尾木直樹さん@京都市立桃山小学校
 「『自己肯定感』って知っている?」。6年生たちに尾木直樹さんが尋ねると一斉に手が挙がった。
 授業は事前に実施したアンケートをもとに展開。将来の夢は?という問いには、スポーツ選手、ゲームクリエーター、人の役に立つ仕事など様々な答えが寄せられた。「44年間の教師生活でこんなに多様な回答は初めて」と感心した尾木ママ。一方で「自分が好きですか?」という質問に大勢(おおぜい)が「好きではない」と答えたことに胸を痛めていた。
 「自己肯定感とは、自分をありのままに認めて好きになる感覚のこと」。では、自分を好きになるにはどうすれば? すると児童から「人と比較しない」という声が。
 「大正解!」。サッカーW杯を例に挙げ、「対スペイン戦で日本の選手は何との競争で勝利したと思う?」。「自分との戦い?」「そう。だから比べるなら人とではなく過去の自分と」
 「暗記から人間性重視の教育へ」「こども家庭庁の設置の意義」など、教育観や社会情勢の変化も説き、最後は、「古い時代を生きてきた尾木ママと今を生きるみなさん、力を合わせて新しい時代を切り開きましょう。エイエイオー!」。元気に声を合わせた。
 授業後に尾木さんは、「アンケートには人生に関する哲学的な質問も。京都という伝統と歴史のただ中で生きる子どもたちは違う! 私も勉強になりました」と振り返った。(昨年12月実施)
 (ライター・安里麻理子 写真家・首藤幹夫)
 
 ★尾木直樹さんの本
 『尾木ママのQ&A「子育て・教育」ホントのところ』第三文明社・1320円▽『取り残される日本の教育』講談社+α新書・924円▽『学習まんが小学生日記 尾木ママと考える!ぼくらの新道徳(全2巻セット)』(指導/監修)小学館・2200円
 
 ■諦めない、夢かなうまで 絵本作家・宮西達也さん@栃木県日光市立湯西川(ゆにしがわ)小中学校
 小学生5人と中学生7人が通う山あいの小さな学校。「生きてますかー!」とプロレスラーさながらのあいさつで登場した宮西達也さん。12人の緊張を一気にほぐした。
 自作絵本の読み聞かせで盛り上がった後、真顔になり、「絵を描く人になりたいと思ったのは小学生の時」……。
 美大を卒業後、グラフィックデザイナーとして安定した生活を送っていたが、夢だった仕事とは違うと感じて辞めた。「絵本なら好きな絵をたくさん描ける」。独学で描いて出版社に持ち込んでは突き返され、泣いた。それでも描き続けて1年が過ぎた頃、「ヘンテコな絵だけど出版してみます」と初めて依頼が来た。「諦める、楽をする。その二つをすれば夢はかないません」
 諦めなかったという話に生徒たちのスイッチが入った。「妖怪やオバケ、何だかわからないものを描こう!」とワークショップが始まると、段ボール紙に一つ目小僧や雪だるまオバケ、思い思いに描きまくる。はさみで切り離し、宮西さんが台紙に張ると……。何だかわからなかった絵が見事なアートになってみんな大喜びだ。
 最後に生徒から「絵本を描いている時はどんな気持ち?」という質問が。「みんなはどうだった?」。逆に尋ねると全員が「気持ちよかった!」。宮西さん「僕も!」。「学年を超えて楽しめて誰かと競うことがない、それが工作のいいところ」。アートがみんなの気持ちをひとつにした。(昨年12月実施)
 (ライター・安里麻理子 写真家・御堂義乗)
 
 ★宮西達也さんの本
 『ちかてつサブちゃん』ほるぷ出版・1430円▽『モグラのモーとグーとラーコ』ポプラ社・1430円▽『ちびちびパンダ』金の星社・1540円
 
 ■自分で「人生変える本」に 小説家・今村翔吾さん@横浜市立南高校
 「声をかけてくれた書店や学校を120日かけて訪ねた。揺れる車の中で連載の原稿書きながら。こんな作家なかなかおらへんやろ?」
 今村翔吾さんは、直木賞受賞時に宣言した「自腹で全国を回る旅」について、図書委員と文芸部員に語り始めた。「本屋はここ20年で半減し、経営難の店も多い。現状を知って、僕と僕の作品を応援してくれる書店に恩返しがしたかった」と胸の内を明かし、こう続ける。
 「小説を娯楽と言うなら、娯楽の王者の座はとっくに陥落してしまった。今は圧倒的に動画配信メディアが強い。でも、もう一度勝負を挑まなきゃアカン。その過程で、本の魅力が何かを改めて考えることはできる」
 本の魅力とは? 動画配信は「隙間時間を埋める」という性質から、時間をかけずにサクサク見られるよう作られている。対して本は読むのに時間がかかる。「効率は悪い。でもそれが本のいいところ」と今村さん。時間をかける中で「自分もこんなことあったな」「私が同じ立場だったらどうする?」と、本の中の世界を自分ごととしてとらえ、自然と自分自身と対話している。そして、その思考は心に深く刻み込まれる。今村さんは語る。
 「『私の人生を変えた本』ってよく聞くけど、人生を変えるほどに何かが心に刻み込まれる本って、実は作家が書いてるんやない。君たち読者が作っている。それが、本の最大で最強の魅力なんや」(昨年12月実施)
 (ライター・中津海麻子 写真家・首藤幹夫)
 
 ★今村翔吾さんの本
 『塞王(さいおう)の楯(たて)』集英社・2200円▽『幸村を討て』中央公論新社・2200円▽『イクサガミ 天』講談社文庫・770円
 
 ■学校の勉強、土台になる ジャーナリスト・池上彰さん@埼玉県上尾市立瓦葺(かわらぶき)中学校
 「ウクライナとロシアはなぜ戦争しなければならなかったの?」「ウクライナは他国から武器援助されるのにロシアが非難されるのはどうして?」。体育館に集まった1年3組の生徒から次々と疑問が飛び出した。
 池上彰さんは「世界情勢を理解するには、それぞれの国の歴史、地理的状況といった背景を知ることが大事」と前置きし、地政学や、ロシア帝国時代から第2次世界大戦時のソ連、東西冷戦の歴史を解説していく。「『ソ連時代の仲間で、歴史的にロシアの一部だったことがあるウクライナNATO加盟なんて許せない』。プーチン大統領はそういう偏った考えになっていったと言われているんだ」
 そして昨年来の侵攻。当初プーチン大統領は3日で陥落すると想定していたが、1年経っても戦況は膠着(こうちゃく)状態だ。旧日本軍が米軍の戦意喪失を狙って真珠湾を奇襲し泥沼の太平洋戦争になだれ込んでいった歴史にもなぞらえ、「戦争って始めるのは簡単でも、終わらせるのはとても大変なことなんだ」。
 「ロシアとウクライナの戦争は私たちにどんな影響が?」。その質問に池上さんは、エネルギーや環境問題への広がりを解説し、最後にこう助言した。
 「なぜ勉強しないといけないのか、疑問に思うこともあるかもしれない。でも実は、歴史や地理、語学、SDGsなど小学校や中学校での学びが土台にあれば、世界で起こっているさまざまなことを理解できるのです」(1月実施)
 (ライター・中津海麻子 写真家・永友ヒロミ)
 
 ★池上彰さんの本
 『世界史を変えたスパイたち』日経BP・1650円▽『聖書がわかれば世界が見える』SB新書・990円▽『世界の歩き方 歴史と宗教がわかる!』(共著)ポプラ新書・979円
 
 ◇ご意見・ご感想は、〒104・8011(住所不要)朝日新聞文化部内 読書推進事務局まで。本の情報サイト「好書好日」(https://book.asahi.com/)で各授業の様子をより詳しく紹介しています。2023年度の募集要項は4月下旬ごろ、朝刊や「好書好日」などで掲載予定です。